EMSが近年、企業の経営課題として強く注目されている背景には、主に以下の3点が挙げられます。
・2050年カーボンニュートラル宣言と法規制の強化
2050年カーボンニュートラル宣言(※1)と 改正省エネ法(※2)に より、企業はエネルギー消費量の削減だけでなく、非化石エネルギーへの転換と、その実績の定量的な報告が義務化されています。EMSは、この脱炭素化への対応を技術的に支えます。
・電力市場価格の変動激化による経営リスクの増大
電力市場価格の変動激化(2021年1月の高騰事例(※3)で は最高251円/kWhを記録)により、エネルギーコストの予測と制御が経営リスク管理における重要課題となりました。EMSは、リアルタイムでの価格変動に対応し、コストを最小化する役割を果たします。
・ESG投資の拡大とサプライチェーンでの脱炭素要請
国内の運用資産額が約500兆円にのぼるESG投資の拡大と、サプライチェーン全体での脱炭素要求が高まっています。EMSによる環境負荷の可視化と削減実績の定量的証明は、現在、取引条件の一つにもなりつつあります。
(※1) 2020年10月26日、第203回国会における菅義偉内閣総理大臣(当時)の所信表明演説において、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることが宣言された
(※2) エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(改正省エネ法)、2023年4月1日施行
(※3) 2021年1月の日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場において、最高値251.00円/kWhを記録(1月15日)。通常時の約25倍の価格水準となった
BEMS(Building Energy Management System)は、オフィスビルや商業施設、学校や病院など、中大規模建築物(延床面積2,000㎡以上が目安)を対象としたシステムです。空調・照明・エレベーターなどの設備を統合的に制御します。ビル全体のエネルギー消費の40~50%を占める空調システム(※4)を、外気温・在室人数・CO2濃度に応じて最適制御します。これにより、快適性を維持しながら約20-30%の省エネを実現します。
電力小売事業者にとっては、テナントビルへの一括受電サービスや、ビル単位でのデマンドレスポンス契約の窓口として重要な接点となります。
(※4) 一般的なオフィスビルにおいて、空調は全体のエネルギー消費の約40-50%を占めるとされる(出典:経済産業省 資源エネルギー庁「オフィスビルの省エネルギー」)
FEMS(Factory Energy Management System)は、製造業の工場やプラントを対象としたシステムです。生産設備やユーティリティ設備(圧縮機・ボイラーなど)のエネルギー消費を生産計画と連動して最適化します(※5)。製造ラインごとのエネルギー原単位管理により、製品あたりのエネルギーコストを可視化します。これにより、稼働率を維持しながら約15〜25%の省エネが可能です。産業用大口需要家向けに、電力小売事業者は負荷調整契約や自家発電との協調運転支援など、高度なエネルギーマネジメントサービスを提供できます。
(※5) 日本電機工業会(JEMA)「工場エネルギー管理システム(FEMS)導入の手引き」(2009年11月)参照
CEMS(Community Energy Management System)は、スマートシティ・工業団地・大学キャンパスなど地域全体を対象としたシステムです。複数のBEMS・HEMS・FEMSを統合し、地域内エネルギーの最適配分を実現します(※6)。地域内の太陽光・風力発電と大規模蓄電池を組み合わせることで、エネルギー自給率向上(目標30-50%)と災害時の電力供給継続を両立できます。電力小売事業者は、地域新電力としてCEMSを核とした地産地消モデルを構築し、託送料金削減と地域経済循環の創出が可能となることから、地方都市においては積極的な計画が進んでいます。
(※6) 日本アジアグループ「地域エネルギーマネジメントシステム(CEMS)の構築と運用」に関する技術資料参照
種類 | 対象施設 | 初期投資目安 | 電力コスト削減効果 | 使用量削減効果 | 主な削減手法 |
BEMS | オフィスビル | 1,000-3,000万円 | 20-30% | 15-25% | 空調・照明の最適制御 |
HEMS | 一般家庭 | 10-50万円 | 10-20% | 10-15% | 家電の自動制御・太陽光活用 |
FEMS | 工場 | 5,000万-1億円 | 15-25% | 10-20% | 生産設備の稼働最適化 |
MEMS | 集合住宅 | 500-2,000万円 | 5-10% | 5-10% | 共用部の効率化・一括受電 |
CEMS | 地域全体 | 数億円規模 | 30-50% | 20-40% | 地域内エネルギー融通 |
(*)上記表の中の数値はわかりやすく理解いただくために各種データから算出した、あくまでも目安です。実際の検討時には各社の状況にあわせて専門家と相談し、算出することを強く推奨します。
AI予測によるデマンド制御で契約電力を10-30%削減し、基本料金を年間数百万円規模で削減(契約電力500kWの場合、年間約300万円削減)できる実績があります(※7)。相関分析により、生産量・外気温・稼働パターンとエネルギー消費の関係を解明するなど、データ活用により、最適な運転条件を自動設定できるようになります。ベンチマークを通じて、同業他社や自社他拠点との比較から改善余地を定量化し、具体的な削減目標を設定することも可能になります。
(※7) 実際の削減額は企業規模、業種、エネルギー使用量により異なる。中規模製造業での導入事例による
企業にとって、エネルギーコスト15〜30%削減の実績は、営業利益率をおおよそ0.5〜2%改善し、競争力強化に直結します。また、CO2排出量の正確な算定と第三者認証により、TCFD(※8)やSBT(※9)などの国際的な環境情報開示要求に対応可能になります。RE100(※10)やEP100などの国際イニシアチブ参加企業として、取引先からの脱炭素要請に定量的なエビデンスで応答することが実現できます。
さらに、2024年時点で経済産業省は、中小企業向けEMS導入支援として、「省エネルギー投資促進支援事業」の補助率を最大2/3に引き上げ、特にクラウド型EMSは優先採択の対象となっていることも検討に値するかと思います。
(※8) TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures):気候関連財務情報開示タスクフォース、2015年12月に金融安定理事会により設立
(※9) SBT(Science Based Targets):パリ協定の目標達成に向け、科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標を設定する国際イニシアチブ
(※10) RE100:事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際イニシアチブ
導入コストに関して、おおざっぱではありますが試算してみると、中規模ビル(延床1万㎡)のBEMS導入では初期費用1,000~3,000万円、大規模工場のFEMSでは5,000万~1億円規模の投資が必要となります(※11)。投資回収期間は平均3~7年(※12)ですが、エネルギー価格変動や補助金活用(最大1/2補助)によっては2年程度に短縮できる可能性もあります。
なお、クラウド型EMSの月額サービス利用により、初期投資を約80%削減し、OPEX(営業費用)化による段階的な導入も可能となってきていますので、実際の導入にあたっては、時代の流れにあわせてクラウド化を中心に検討し、どうしても自社システムが必要な場合は、SI会社と相談するのが適切と思われます。また、クラウド化することで、早期立ち上げが可能となりやすい点も見落とせないポイントです。
(※11) 施設規模、導入するシステムの機能、既存設備の状況により大きく変動。経済産業省「省エネルギー投資促進支援補助金」の採択事例による目安
(※12) 一般社団法人ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会による省エネ改修の投資回収年数に関する調査結果
スマートメーターの普及(2024年度末までに全世帯への導入を目標(※13))により、30分値データの大量処理が必要となっています。託送料金・再エネ賦課金・容量市場拠出金など20項目以上の料金要素を、法改正に即応しながら正確に計算する必要があるのが現状です。AIを活用した自動料金計算システムやクラウド型CISにより、場合によっては計算時間を約90%削減し、請求ミスを限りなくゼロに近づけることができます。法改正対応などは、パッケージ化されたクラウド型CISのほうが対応が早いことは確実ですので、変化対応への柔軟性を確保したい場合には有効な選択肢となります。
(※13) 経済産業省「スマートメーター制度検討会」における導入計画。各電力会社により進捗は異なる
クラウド型CISの導入で、複雑な料金計算や請求処理といった定型的なバックオフィス業務の自動化が可能になった結果、業務効率が大幅に向上します。
顧客側は、Webサイトやモバイルアプリを通じて、エネルギーマネジメントシステムのデータに基づいたリアルタイムの使用状況や予測料金を確認でき、利便性が向上します。電力小売事業者は、顧客からの料金や使用状況に関する問い合わせに対して、統合されたデータを基に迅速かつ正確な回答を提供でき、顧客満足度の向上につながります。
ユニファイド・サービスの「Unisrv 電力CIS」は、API連携によりエネルギーマネジメントシステムとの接続にも対応したクラウド型CISサービスを展開しています。このことにより、新しい料金プランやサービスを迅速に適用することを可能にし、多様化する市場の変化への対応力を高め、結果として経営に貢献していきます。ぜひ以下のリンクをチェックしてみてください。
電力小売業務の効率化を実現。エネルギーマネジメントシステムと連携可能(*)な「Unisrv 電力CIS」について詳しくはこちら
(*) 現時点では個別開発が必要
エネルギーマネジメントシステム(EMS)は、カーボンニュートラルや電力価格高騰への対応を可能にする、現代の企業経営に必要なツールとなっています。BEMS、FEMSなど用途に応じたシステムでエネルギーを「見える化」「最適化」し、コスト削減と環境目標達成に貢献します。一方で、初期コストや既存設備との連携、専門人材の確保が課題です。特に電力小売事業者は、EMSデータを核としたクラウド型CISを導入することで、料金計算や顧客管理といったバックオフィス業務を自動化できます。これにより、動的料金プランやデマンドレスポンスといった高度な付加価値サービス開発に経営リソースを集中させることが可能になります。電力小売業務のDX推進と競争力強化に向けて、EMS連携を前提としたシステムの検討をおすすめいたします。
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(*) 現時点では個別開発が必要
2025年12月9日
この記事の監修者

甲斐 博一
ユニファイド・サービス株式会社 CMO
グローバルIT企業における23年間のマーケティング経験に経営企画のスキルも加えB2B/B2Cともに経営とマーケティングを結び付けていくことをモットーとする。また、数多くのデジタルマーケティングおよびECの立ち上げや衰退ビジネスの立て直しも経験し、Webサイトを事業に貢献させてきた経歴を持つ。現在はユニファイド・サービスにて、B2B領域のビジネスにフォーカスし、CMOとしてマーケティングを推進すると同時に、新規事業計画と成長を支援する活動を並行して実践中。経営とマーケティング、事業企画、そしてリーダーシップを次世代に伝えていくための活動もライフワークとして行っている。