デマンドレスポンスとは、電力の需給バランスを調整するために、需要家(工場、ビル、一般家庭など)が電力会社やアグリゲーター※1からの要請に応じて、電力の使用量を増減させる仕組みのことです。従来の電力供給の仕組みでは、需要に合わせて発電所の出力を調整していましたが、DRでは逆に、供給状況に合わせて需要家が電力使用を調整します。この需要家側からの能動的な調整により、電力系統の安定化に貢献する新しい形のエネルギーマネジメントとして注目されています。
近年導入が進む再生可能エネルギーは自然天候等に左右されやすく、発電量が不安定です。これを補い、電力系統全体の安定性を保つ上で、デマンドレスポンスは重要な役割を果たしています。消費者にとっては、電力の節約や削減への協力により、電気料金の割引や報酬(インセンティブ)を得られるのがメリットです。電力システム全体では、ピーク時の電力需要を抑制し、送配電設備の増強コストを削減する効果があります。
※1 アグリゲーター:複数の需要家(企業・家庭など)の電力調整を束ね、電力市場にその価値を提供する事業者。需要家へDRプログラムの企画や報酬の支払いを行うなど、電力需給調整の実務を担う。
デマンドレスポンスは、大きく分けて「下げDR」と「上げDR」の2種類に分類されます。これは、電力需要を「減らす」のか「増やす」のかによって区別されます。
| 目的 | 需要家の行動例 |
下げDR | 供給不足(ひっ迫)時や価格高騰時に、需要を下げる | エアコンの温度調整や生産ラインの一時停止など、電力使用量を減らす |
上げDR | 供給過多(余剰)時に、需要を上げる | 電気自動車(EV)の充電や蓄電池への蓄電など、電力使用量を増やす |
下げDRでは、需要家は要請に応じて一時的に電力の使用を抑制します。電力需要が供給能力を上回りそうなピーク時や、電力不足が予想される時間帯に実施されるのが一般的です。上げDRでは、需要家は要請された時間帯に電力の使用量を増やします。再生可能エネルギーの発電量が急増するなどして、電力の供給が需要を大幅に上回ってしまう事態(供給過多)を防ぐために実施されます。
デマンドレスポンスの具体的な実施方法や需要家への報酬の仕組みは、「電気料金型DR」と「インセンティブ型DR」の2つに分類されます。
「電気料金型DR」は、時間帯や季節によって電気料金単価を変動させ、需要家の行動変容を促す仕組みです。電力需給がひっ迫する夏冬のピーク時間帯には高額な単価を設定し、再生可能エネルギーの発電量が需要を上回り余剰が生じやすい時間帯には低額な単価を設定します。これにより、需要家は自然に安い時間帯への電力使用シフトを行います。
「インセンティブ型DR」は、電力会社やアグリゲーターからの要請に基づき、需要家が特定の時間帯に電力使用量を調整し、その対価として報酬を受け取る仕組みです。需給ひっ迫時には使用量削減の要請(下げDR)、再エネ余剰時には使用量増加の要請(上げDR)が発出されます。需要家は事前契約に基づき、要請への応答実績に応じた金銭的インセンティブを獲得します
それぞれを以下の表で比較してみましょう。
| 電気料金型DR | インセンティブ型DR |
需要家の行動 | 自律的に電力使用時間をシフト・削減する | 電力会社などからの要請に従い、電力使用量を調整する |
報酬・メリット | 割安な時間帯に電力を利用することで、電気料金を節約できる | 調整への協力に応じて、報酬を受け取る |
デマンドレスポンスは、電力需要が急増するピーク時の対策と、国全体の省エネ推進のために重要です。夏季・冬季に発生する電力のピーク需要は、電力供給コストや環境負荷増大の要因となります。DRによる「下げDR」は、このピーク時の使用電力を抑制し、使用量の山を平らにするピークカット※2やピークシフト※3を実現します。これにより高額な設備増強を避け、電力システム全体の効率化につなげることができます。
また、デマンドレスポンスの取り組みは、改正省エネ法で求められる「電気需要の最適化」に貢献するものです。企業が積極的にDRへ参加することで、電力の安定供給や再生可能エネルギーの有効活用といった社会的課題の解決や、長期的なエネルギーコストの低減にもつながります。
※2 ピークカット:電力需要の最も高い時間帯に使用量を削減し、需要の最大値を抑えること。
※3 ピークシフト:ピーク時の電力使用を、夜間など需要の少ない時間帯に移行すること。
デマンドレスポンスの取り組みが加速している背景には、政府による段階的な電力システム改革があります。2016年の電力小売全面自由化により市場競争が活発化し、新たなビジネスモデルが生まれる土壌ができました。さらに2021年4月から順次開設された「需給調整市場」により、DRによって生み出される調整力を市場で取引し、収益化できる仕組みが確立されました。
また、デマンドレスポンスはVPP(仮想発電所)の中核技術としても重要です。VPPとは、家庭や企業の蓄電池、電気自動車(EV)、自家発電設備などをIoT技術でネットワーク化し、あたかも一つの発電所のように統合制御する仕組みです。DRは、このVPPにおいて需要側の調整を担う重要な要素として位置づけられています。 こうした制度整備により、デマンドレスポンスは単なる節電要請から、市場価値を持つビジネスへと進化しました。電力会社だけでなく、アグリゲーターや需要家にとっても新たな収益源となっています。
※需給調整市場:一般送配電事業者が、電力の需給バランス調整に必要な調整力を調達する市場。三次調整力②(2021年4月開設)から順次商品が追加され、2024年4月に全商品区分が揃いました。
デマンドレスポンスに参加し、効果的に電力調整を行うためには、初期段階で一定の設備投資が必要となることが、需要家にとって障壁となる場合があります。具体的には、費用の大小を問わず、以下のコストがかかります。
設備・制御システム | 概要 |
エネルギーマネジメントシステム | 電力使用量を正確に計測・予測し、自動で調整指令を実行するなどエネルギーの高度利用のためのシステム導入費用 |
蓄電池・自家発電設備 | 電力調整の柔軟性を高めるため、蓄電池や電気自動車(EV)の充電設備といったハードウェアの導入・設置コスト |
システム構築・コンサルティング | アグリゲーターとの接続システム構築や、最適な運用方法を策定するためのコンサルティングやシステム構築費用 |
当然のことながら、こうした初期投資額を、デマンドレスポンスによって得られる長期的な報酬や電気料金の削減効果と比較し、費用対効果を慎重に判断することが重要となります。
次に、蓄電池や電気自動車(EV)、空調など自社に必要な機器の活用を検討していきます。
種類 | 活用例 |
蓄電池・電気自動車(EV) | 供給不足時には放電して需要をまかない(下げDR)、供給過多では充電する(上げDR) |
空調設備 | ピーク時に設定温度を一時的に調整し、消費電力を抑制する(下げDR) |
生産設備 | 非生産時間や余裕のある時間帯に稼働時間をシフトしたり、一時停止したりする(下げDR) |
また、こうした機器を自動制御するエネルギーマネジメントシステムを導入することで、効率的かつ安定的に電力を調整できるようになります。
デマンドレスポンスの実施は、以下の3段階のプロセスで進められます。
1.事前準備(契約~システム構築):
まず、自社の電力使用パターンを分析し、調整可能な負荷容量を把握します。次にアグリゲーターと契約条件(報酬単価、最低調整量、ペナルティ条件等)を協議し、参加契約を締結します。その後、遠隔制御システムやスマートメーターを導入し、ベースライン算定のための過去データを蓄積。本番前には、実際の制御テストを行い、目標調整量の達成可能性を検証します。
2.DRイベント(発動~実行):
DRイベントは通常、前日または当日の数時間前に通知されます。アグリゲーターからメール、アプリ、自動制御信号などで発動要請を受信したら、指定された時間帯(通常1~3時間)に事前に計画した手順で電力調整を実行します。下げDRの場合は空調設定変更や生産ライン調整、上げDRの場合は蓄電池充電やEV充電などを行います。
3.評価(M&V~精算):※(M&V : Measurement & Verification)
イベント終了後、30分ごとの電力データを基にM&V(測定・検証)を実施します。ベースライン(調整しなかった場合の想定使用量)と実績値の差分から調整量を算出し、契約条件に照らして達成率を評価。通常、翌月に調整実績に基づく報酬がアグリゲーターから支払われます。未達成の場合は、契約によってはペナルティが発生することもあります。
ユニファイド・サービスの「Unisrv 電力CIS」は、顧客情報・契約メニュー・電力量データを統合し、デマンドレスポンスに参加する需要家の登録やイベント応答履歴を一括で管理します。
(*) Unisrv 電力CISではお客様のご要望に応じてカスタマズにて対応
これにより、各プログラムの対象者、実施状況、報酬実績などを正確かつタイムリーに把握することが可能です。小売電気事業者が複雑なDR運用を安定的に継続していく上で、信頼性の高いデータ基盤を提供します。
電力CISを発展、活用することで、DR運用の効率化だけでなく、時間帯別料金、再エネメニュー、地域DRなど、新たなサービスや商品設計が容易になります。
今後は「CIS × DR × 再エネ」を連携させたサービス提供が、小売電気事業者にとっての新たな競争優位性のひとつとなることも予想されます。「Unisrv 電力CIS」の拡張性は、単なる電気料金計算システムにとどまらず、デマンドレスポンスを顧客価値へと変換するためのプラットフォームとして進化させることも可能なのです。
デマンドレスポンスは、需給ひっ迫時の緊急対策にとどまらず、企業のエネルギーコスト削減、再エネの有効活用、地域のレジリエンス強化など、多面的な価値を生み出す仕組みとして重要性を増しています。企業や自治体が積極的にDRに取り組むことで、従来の「電力を使うだけの需要家」から、「電力システムの安定化に貢献する参加者」へと役割を変化させることが可能になります。
さらに、デマンドレスポンスと再生可能エネルギー、時間帯別料金、蓄電池制御、VPPといった新しい電力サービスを組み合わせることで、電力ビジネスの可能性は大きく広がります。その運用を支える基盤として、ユニファイド・サービスの「Unisrv 電力CIS」のような契約や請求、需要データを統合管理できる情報システムの重要性も高まっています。
今後の電力市場では、「CIS × DR × 再エネ」という連携が、脱炭素化や地域の持続可能性を支える新しい競争優位の源泉となっていくと考えられます。デマンドレスポンスへの参加は、電力を安定的かつ持続可能に利用するための第一歩です。今後、あらゆる企業がエネルギーの価値を創出していく時代へとシフトしていくことが期待されます。
2025年12月3日
この記事の監修者

甲斐 博一
ユニファイド・サービス株式会社 CMO
グローバルIT企業における23年間のマーケティング経験に経営企画のスキルも加えB2B/B2Cともに経営とマーケティングを結び付けていくことをモットーとする。また、数多くのデジタルマーケティングおよびECの立ち上げや衰退ビジネスの立て直しも経験し、Webサイトを事業に貢献させてきた経歴を持つ。現在はユニファイド・サービスにて、B2B領域のビジネスにフォーカスし、CMOとしてマーケティングを推進すると同時に、新規事業計画と成長を支援する活動を並行して実践中。経営とマーケティング、事業企画、そしてリーダーシップを次世代に伝えていくための活動もライフワークとして行っている。